バナナフィッシュ読了

作者:吉田秋生。1985年から1994年にかけて小学館別冊少女コミックにて連載。

 

 

勝手にアッシュと英二の絆を描くコンビものかと思っていたが、実際はよりハードな、新種の麻薬を巡るサスペンスと大人に搾取され傷つきながら抗い生きる子どもたち、その中心にいるアッシュと彼の魂を救済する存在としての英二、という物語だった。あらすじを読む限りは少女漫画に分類される話とは思えなかったが、このアッシュと英二の関係が少女漫画でいう「ヒロインの相手役とヒロイン」で、ヒロインの相手役を主人公に据えたのがこの作品なのではないかと思う。英二が「待つ」ことでアッシュに心安らげる「帰る」場所が生まれ、それは別の世界に生きる者同士の絆という意味でも英二がアッシュの隣に並び立つ存在にはならず、彼らが同じ世界に属さないからこそ英二がアッシュの魂を救済する存在になりうる。「戦うお姫様」は現代では珍しくなくなったが、銃を撃つ時も目をつむってしまう戦う力を持たない英二と、マフィアの帝王学を叩き込まれ裏社会に君臨しうる力を持つアッシュ。同じ世界に生きられない者同士の絆を描いた作品は、実はこれまで数える程しか読んだことがなく非常に新鮮だった。アッシュにとって英二が守らねばならない存在ではなく(英二の安全を第一に考えるなら日本に帰国させればよい)自分を守るために手放せない存在だったことを思うと、これは紛れもなくアッシュ・リンクの物語であり、あの結末で英二の心を永遠に手に入れたアッシュは、文字通り幸福な最期を迎えたのだろう。